(本記事は、2021年1月23日にnoteで公開した記事の再掲です)
アンダース・エリクソン著『超一流になるのは才能か努力か?』を読了した。
いわゆる超一流と言われる人々…モーツァルト、ピカソ、タイガー・ウッズ、パガニーニといった人々も、「生まれつきの才能」で超一流になったというエビデンスはない。
超一流になる方法は「適切な方法で練習を重ねる」以外にない、ということを30年間の研究をもとに論ずる本で、大変参考になった。
興味を持たれた方はぜひ本書をお読みいただければと思うが、本書の語る適切な練習方法のポイントをざっと列挙すれば、以下のようになる。
- 具体的な目標を明確に定義する
- 集中して行う
- 必ずフィードバックを行う
- 「居心地のよい領域(コンフォート・ゾーン)」の外に出る
なぜこの本にたどり着いたかというと、太極拳などで語られる「掤勁」について調べていたところ、日本太極気功法協会の劉暎渲先生による、非常にわかりやすいYouTube動画を拝見したことに端を発する。
なにこれめっちゃわかりやすい。
技量が高いだけでなく、「どうやって伝えるか」を考え抜いた、すばらしい動画だと感銘を受けた。
強い興味を持ち、劉暎渲先生の動画を様々拝見したところ、日本太極気功法協会の指導方法について解説した動画にさらに興味をひかれた。
「太極拳を練習していく中で、ある一定のレベル以上の上達がなかなかできない、または遅いと感じている人が多いのではないでしょうか」
「太極拳の練習の過程の中で、常に3つの勘違いがあります」
- 長く練習を続けさえすれば、自然に上達すると思っている
- 套路の練習が太極拳の練習であり、套路の練習をすればするほどいいと思っている
- 自分の能力に限界があるような気がして、いくら練習しても先生を超えられないと思っている
すさまじい切れ味だ。グサグサ来るぜ!^^;
そして劉暎渲先生は「刻意練習」こそが最も効果的な練習方法だと語る。
…「刻意練習」って、なんだ??
「刻意練習」を検索すると、「PEAK: Secrets From The New Science of Expertise」という書籍の中国語名だとわかった。
この書籍の日本語名が『超一流になるのは才能か努力か?』だった、というわけだ。
…これはちょっと、翻訳に問題があるのではないだろうか。
本書の鍵となる練習方法は、英語では「deliberate practice」、直訳すれば「意図的な練習」である。中国語の「刻意練習」は英語の直訳と言える。
ところがこの言葉は、日本語では「限界的練習」と表現されている。
はたしてこの訳は、適切な訳と言えるだろうか。
日本人好みのガンバリズムだと捉えられかねないのではないか。
こうしたガンバリズムは「deliberate practice」では明確な間違いとして否定されている。
書籍名も、少々意訳が過ぎるのではないだろうか。
売れるためにはこのような書名がよいと考えたのだろうか。
それで本当に売れて、この書の重要なコンセプトが伝わったのならよいのだが…
ともあれ、日本太極気功法協会および劉暎渲先生の指導方法はいわゆる「伝統的指導法」ではなく、アンダース・エリクソンの唱える「deliberate practice」コンセプトに基づいた太極拳指導方法だということだ。
中国伝統武術を指導する指導者の中で、ここまで大胆に指導法にメスを入れた例を私は寡聞にして知らない。
伝統武術の指導方法には再検討が必要だということは、私も以前書いた。
また太極拳のみならず中国伝統武術学習者必読書と言える、以前紹介した銭育才『太極拳理論の要諦』でも、指導方法を見直す必要性が語られている。
この書では「甄三(けんぞう)」のエピソード(ひたすらシャベルで土の山を移すという修行をやった)を紹介し、
我々の時代はそれとは違います。条件が変わりました。
(中略)
時代が異なり、理論が研究され、情報処理システムが発達し、社会道徳観も人々の考え方も変わり、昔日の師道尊厳が話にならない今日、太極拳の健全な持続的発展を図るための人材大量養成(ピラミッド構築)から考えても、個人の健康増進と拳法レベルの順調な向上から考えても、指導方法を抜本的に改革する必要があると思います。一方、理論の重要性を強調すると同時に、その教条化を避け、鵜呑み現象や機械的応用にも常に注意を払わなければならないと思います。
まさに慧眼、というべき見解だろう。
このコロナ禍は、様々なものを見直す契機とも言える。
まずは日本太極気功法協会および劉暎渲先生の指導方法から、よく学ばせていただきたいと思っている。
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