「伝統武術キラー」徐暁冬は何と戦っているのか(1)

(本記事は、2020年12月25日にnoteで公開した記事を再編集し再掲したものです)


天龍武術会の石井敏先生から「おもしろいから、見てごらん」と言われて、1枚のメディアを渡された。

BS1の番組「真実への鉄拳〜中国・伝統武術と闘う男」の録画だ。

「中国の武術界にはウソが多い。総合格闘技に比べて実戦性はない。特に、伝統的な武術にはウソが多い。時間とカネをかけて取り締まろうと思っている。
世の人たちに、これがウソだと伝えたいんだ。人々が信じられなくても、俺が正体を暴いてやる」

こう語り、伝統武術家を片っ端から倒しているのが“伝統武術キラー”徐暁冬だ。

そうした人物の存在は聞いてはいたが、興味がなかったので特に掘り下げてなかった。
武術の試合をするならば、それは常に「その人vsその人」でしかあり得なく、負けたのなら単にその人が実力不足であるというだけのこと。
お互い納得の上で戦ったのなら、その結果がすべて。
それ以上でも以下でもない。
…としか考えてなかったからだ。

しかし、この番組を見て、事態が「純粋な武術の話」でなくなっていることを理解した。
これは厄介だが、一度整理する必要がありそうだと思い、記事を書き始めた。
この番組が提示している論点ごとに整理してみる。

徐暁冬に負けた伝統武術家は、伝統武術をできてない

まずは「純粋な武術の話」。
番組中に出てくる伝統武術家は、ことごとく徐暁冬に破れ去っている。
正直、これはひどい、と思った。
戦いの水準になってない。
自分が戦えるのかどうかも判断できずにノコノコと死地にやってきて、負けるとなんだかんだと言い訳をする。
これでは、徐暁冬に「偽物だ」と言われても仕方がない。

番組中で徐暁冬に負けた伝統武術家全員に共通しているのが「伝統武術をできてない」ということだ。
場の選択を誤ったか、徐暁冬に飲まれたか、いずれにせよ、伝統武術の技術をまるで使うことができず、レベルの低いMMAのようなムーブになってしまい、コテンパンにやられている。

これまでずっと伝統武術を修行してきたのだから、伝統武術を使わなければ負けるに決まっている。
死地において、これまで修行してきた伝統武術をちゃんと使えるか。
そもそも、「何をもって伝統武術の稽古としてきたか」。
この認識が問われている。

徐暁冬のトレーニング方法は、結構「伝統武術的」だった

一方、徐暁冬は強いのかどうかだが、これは確かに強い、と思った。

徐暁冬がジムでやっていたトレーニング方法も注目に値する。
例えば、直径が自分の身長くらいある巨大タイヤをひっくり返したり、ハンマーを振り下ろしたりするトレーニングをやっていた。
これは、結構「伝統武術的」な修行方法だ。

徐暁冬に負けた武術家は、ちゃんと相手の研究をしたのだろうか?
戦う相手がわかっているなら、その相手を徹底研究するのが基本中の基本だ。
看板がかかっている戦いに無策で挑むなど、それこそ戦いをなめている。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という、まさしく中国の伝統的教えを守るべきだ。

さて、「純粋な武術の話」はここまで。
次回は、徐暁冬と中国伝統武術界をめぐる、ひいては社会全体にも関係する「なまぐさい話」を書かざるを得ない…。

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